季節の移りゆくのはあっという間。
このブログの更新も(お得意の筆不精によって)滞ってしまっていました。
今日は絶賛稽古中の2023年Offza版「Hear my song」について書いてみます。
以前のブログでもお伝えしたように、WAOの方針として、劇空間での密な演出体験をお届けできない状況で活動をすることは難しいと判断し、実に3年もの間、新作を上演することができずにいました。
しかし、今年に入って演劇界を取り巻く空気感、状況が変化したことによって、我々も劇場での創作を再開できるのでは?ということになり、Offza様とご縁を頂いて、この「Hear my song」の実演版の製作が始まりました。
「Hear my song」を貫くテーマは「距離(distance)」だと思っています。
それは、この作品を立ち上げた「eミュージカル」という企画が、製作の中で誰かと直接会うことを制限したフルリモート、「Social distance」必守のものだったからというのもあります。
ですがなによりも、登場する一組の男女が作品の中で決して交わることがなく、しかし影響しあって、その精神的な距離を縮めたり遠ざけたりしながら展開していくところに、そのテーマが色濃く出ています。
今回のOffza版製作にあたり、一切セリフが無かったYouTube版を再構成し、登場人物の設定の変更を施しました。「一組の男女の物語」から「俳優を志す若い女性と、その子に恋をする一般男性の物語」へと具体性が増し、キャラクターも一層浮き上がったかと思っています。そして、この作品を貫いている「距離」というテーマについても、「お互いへの距離」の他にも要素を足すことによって、より明確化されています。
楽曲に関して、YouTube版制作時は作曲のSOYさんにかなりのご負担をかけて、1ヶ月ないスケジュールの中で10曲を作成しました。どれも急ピッチで作ったとは思えないクオリティで、今回のOffza版でも殆どの曲がそのまま使用されています。また高山和大さんによる振付がついて、大きく印象を変えたシーンや、インパクトを増したナンバーもあります。
他方、YouTubeでしか表せない面白さを持った曲などは差し替え、新たに2曲が加わりました。そのうち、オープニングの一曲は、作品の概観を表すのに大きな役割を担っているだけではなく、WAOとして、私個人としても、「YouTube版からOffza版」に至る時間経過を総括するような楽曲になっています。長いようであっという間な、そんな時間だったと感じています。
また今回はOffzaに勤める若手俳優の皆様のご協力をいただき、毎回違うキャストでの上演が実現しています。女性のキャストの皆様が一度きりのステージとなってしまうのは、とてももったいない、何度もやって多くの人に見て頂きたいなと思うのですが、「等身大」の生き様が回替わりで様々見られるのは、滅多にない貴重な機会だと個人的には思っています。キャストの皆様が歩んできた道のり、現時点の居場所、目指す未来、一人ひとり違っているものを、できるだけそのまま板の上に持ってきてもらって、表現していただくのがYouTube版から変わらない「Hear my song」の醍醐味だと、連日の稽古の中で強く感じています。
最後に、これは6月公演を終えての感想ではあるのですが、この作品はOffzaという場所にとても調和していると思っています。それは出演する俳優の皆様の年代もありますが、一番は、お客様との距離の近さです。
普段の営業時にはレストランの席の案内、配膳をしているところから、舞台に上がって俳優になる、Offzaのキャストの皆様。この作品もそんな彼らが、いつもの距離感で、等身大に語ってくれます。
日本唯一のミュージカル・ダイナーでやるにふさわしい、無二の作品であると自負しています。
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